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開発中の薬、ハンセン病患者に繰り返し投与 戦中の療養所、死亡例も

菊池恵楓園の園内=2024年6月、熊本県合志市
菊池恵楓園の園内=2024年6月、熊本県合志市

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かつてハンセン病はんせんびょう患者かんじゃ強制きょうせい隔離かくりされていた国立こくりつ療養所りょうようじょ菊池恵楓園きくちけいふうえん」(熊本県くまもとけん合志市ごうしし)で、だい2大戦たいせんちゅうから戦後せんごにかけて、開発かいはつ中のくすり投与とうよする試験しけん入所者にゅうしょしゃかえされ、つよ副作用ふくさよう死亡例しぼうれい確認かくにんされたつづいていたとする調査ちょうさ報告書ほうこくしょを、同園どうえん歴史れきし資料館しりょうかん運営うんえい委員会いいんかいがまとめ、24にちえんの「臨床りんしょう倫理りんり及び人権じんけん問題もんだい委員会いいんかい」に提出ていしゅつした。報告書ほうこくしょは「当時とうじ医師いしらの医療いりょう倫理りんりのありかたに疑問ぎもんたれる」としている。

薬剤は「虹波こうは」。報告書の基礎資料で、朝日新聞あさひしんぶん開示請求かいじせいきゅうで入手した文書資料によると、感光かんこう色素しきそであるクリプトシアニンくりぷとしあにん成分せいぶんとした薬剤で、きゅう陸軍りくぐん凍傷とうしょうやけどやけど治療ちりょうなど寒冷地かんれいちでの作戦さくせんへの応用おうよう着目ちゃくもくし、熊本医科大くまもといかだいげん熊本大医学部くまもとだいいがくぶ)の波多野輔久はたのすけひさ教授きょうじゅ研究けんきゅう委託いたくした。結核けっかく患者かんじゃ投与とうよ患者かんじゃ回復かいふくしたれいがあったため、結核菌けっかくきん近縁きんえんのらいきん原因げんいんハンセン病はんせんびょうにも効果こうか期待きたいがかかった。

その宮崎みやざき松記しょうき園長えんちょう当時とうじ)も研究けんきゅうくわわり、1942(昭和しょうわ17)ねん12がつから臨床りんしょう試験しけんはじまった。

宮崎みやざき園長えんちょうらがしるした試験しけん結果けっか報告ほうこくによると、43ねん10がつまでの10カ月かげつかんに6さい子供こどもふくむ371にん虹波にじなみ投与とうよされた。

記録きろくによると、投与とうよ中に9にん死亡しぼう。うち7にん肺結核はいけっかく急性きゅうせい肺炎はいえん出血性しゅっけつせい黄疸おうだん(おうだん)などが死因しいんで、のこる2にんは「死因しいんには疑問ぎもんがある」とされ、虹波こうは投与とうよとの相関そうかんうたが記述きじゅつがある。

投与は、1週間しゅうかんに1かい0.1ミリグラムみりぐらむから1にち1かい120ミリグラムみりぐらむまで投与とうよ頻度ひんどりょうえたほか、内服ないふく皮下注射ひかちゅうしゃ皮膚ひふるだけでなく、脊髄せきずいせきずいせきずい)、肛門こうもんこうもんこうもん)やちつちつちつ)への注入ちゅうにゅうなど様々さまざま方法ほうほうためした。結果けっか、「効果こうかあり」が81.9%、「無効むこう」16.4%、「増悪ぞうあく」1.6%とされた。

副作用については、倦怠けんたいけんたいけんたい)感、結膜けつまく充血じゅうけつなど)の障害しょうがい疼痛とうつうとうつうとうつう)、発疹はっしん知覚ちかく異常いじょうめまいめまい吐き気はきけなどのうったええがあった。

宮崎みやざき園長えんちょうらが戦後せんごしるした研究けんきゅう経緯けいいまとめまとめによると、入所者にゅうしょしゃは43ねん以降(臨床りんしょう試験しけんへの)抵抗ていこうしめるようになったが、投与とうよつづけられた。44ねん3がつからの期間きかん試験しけんでは有効性ゆうこうせいしめデータでーたとぼしく、「有効ゆうこう」2.8%、「副作用ふくさよう」22.8%という結果けっか理由りゆうさがるために虹波にじなみ投与とうよ試験しけん戦後せんごの47ねん6がつまでおこなわれた。

報告書ほうこくしょでは、けい476にん被験者ひけんしゃとして確認かくにんされた。初期しょきにはぜん入所者にゅうしょしゃの3ぶんの1をしめ大規模だいきぼ試験しけんだったという。(大貫おおぬき聡子さとこ吉田よしだけい

Vocabulary

Word (Furigana)JLPT LevelPart of SpeechMeaning
強制隔離 (きょうせいかくり)N2Nounisolation, quarantine
繰り返す (くりかえす)N3Verb (Godan)to repeat
死亡例 (しぼうれい)N2Noundeath case
確認 (かくにん)N3Nounconfirmation
提出 (ていしゅつ)N2Nounsubmission
臨床 (りんしょう)N2Nounclinical
倫理 (りんり)N2Nounethics
人権 (じんけん)N2Nounhuman rights
薬剤 (やくざい)N2Nounmedication
感光色素 (かんこうしきそ)N1Nounphotosensitive pigment
応用 (おうよう)N2Nounapplication
研究 (けんきゅう)N3Nounresearch
投与 (とうよ)N2Nounadministration (of medicine)
回復 (かいふく)N3Nounrecovery
期待 (きたい)N3Nounexpectation
加わる (くわわる)N3Verb (Godan)to participate
記す (しるす)N2Verb (Godan)to record
死因 (しいん)N2Nouncause of death
相関 (そうかん)N1Nouncorrelation
頻度 (ひんど)N2Nounfrequency
(りょう)N3Nounamount
内服 (ないふく)N1Nounoral administration
皮下注射 (ひかちゅうしゃ)N1Nounsubcutaneous injection
注入 (ちゅうにゅう)N1Nouninjection
効果 (こうか)N3Nouneffect
増悪 (ぞうあく)N1Noundeterioration
倦怠 (けんたい)N1Nounfatigue
充血 (じゅうけつ)N2Nouncongestion
障害 (しょうがい)N3Nounobstacle
疼痛 (とうつう)N1Nounpain

Grammar and Sentence Structure

  • Sentence 1: かつてハンセン病患者が強制隔離されていた国立療養所「菊池恵楓園」(熊本県合志市)で、第2次大戦中から戦後にかけて、開発中の薬を投与する試験が入所者に繰り返され、強い副作用や死亡例が確認された後も続いていたとする調査報告書を、同園の歴史資料館運営委員会がまとめ、24日、園の「臨床倫理及び人権問題委員会」に提出した。

    • Grammatical points: This sentence contains multiple relative clauses and nominalization, making it complex.
    • Structure: The sentence starts with the main clause describing the action of submitting a research report to a committee. Then, it includes a long relative clause describing the content of the report, followed by additional information about who compiled the report and when it was submitted.
  • Sentence 2: 薬剤は「虹波(こうは)」。報告書の基礎資料で、朝日新聞が開示請求で入手した文書資料によると、感光色素であるクリプトシアニンを成分とした薬剤で、旧陸軍が凍傷ややけどの治療など寒冷地での作戦への応用に着目し、熊本医科大(現・熊本大医学部)の波多野輔久教授に研究を委託した。

    • Grammatical points: This sentence includes a series of explanations and descriptions linked by particles and conjunctions.
    • Structure: The sentence introduces a drug called “虹波” and then provides detailed information about its composition, origin, and the research conducted by Professor 波多野輔久 at 熊本医科大.
  • Sentence 3: 投与は、1週間に1回0.1ミリグラムから1日1回120ミリグラムまで投与の頻度や量を変えたほか、内服や皮下注射、皮膚に塗るだけでなく、脊髄(せきずい)、肛門(こうもん)や膣(ちつ)への注入など様々な方法で試した。

    • Grammatical points: This sentence includes a list of different methods of drug administration using the particle “や” to indicate additional items in the list.
    • Structure: The sentence describes the various methods of drug administration, starting with changing the frequency and dosage, then listing different routes of administration such as oral, subcutaneous injection, topical application, and even injection into the spinal cord, anus, and vagina.

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